-12- まだわからないけど。
「ちょっと驚く話になってしまうかもしれないけれど。」
先生が前置きした。
パソコンとモニターがある小さな談話室。
先生と鼻から管の人の、1対1だ。
「正直、私達も驚いています。私達は今でもクローン病の可能性が一番高いと思っています。」
はい。そういう話でした。
「生検の結果、がんの疑いが出ました。」
はい。
…え?
がんって、あのがん、だよね。
「生検でがんの可能性は5段階で示されます。白、薄いグレー、グレー、濃いグレー、黒、とイメージするとわかりやすいと思います。今回、濃いグレーの結果が出ました。」
「私達は今でもがんであるとは考えにくいと思っています。というのは、今回濃いグレーの出た生検を取った場所は小腸だからです。大腸で取ったものは白でした。」
「小腸は心臓の次にがんが出来にくい部位と言われています。小腸にがんができるケースは、消化器官にできるがん、胃がんとか大腸がんとか…の1%程です。とても稀ながんです。」
「私達は今でもクローン病による炎症である可能性が一番高いと思ってますが、検査の結果がそう出た以上、もう一度よく調べる必要があります。明日、採血ともう一度大腸カメラ、それと胃カメラをやります。大腸カメラでは前回よりももっとたくさん生検をする予定です。」
…そうですか。
正直、どのくらいの確率でがんなんでしょうか。
「もう一度徹底的に精密検査をしてみないと何とも言えません。」
もし仮にがんだった場合、治るもんなんでしょうか。
「がんを手術で完全に取り除ければ、根治する可能性は十分あります。」
でも、がんって転移してるかもしれないんですよね。
「そうです。」
もし、仮に転移してたら、どうなんでしょう。
「それは転移していた場所によります。」
「まだがんと決まったわけじゃないです。可能性が出てきた、という話です。」
正直なところ、言われたときは思いの外冷静だった。
確定というわけではない、ということにすがっていたからかも知れないけど、どこか他人事のような感じでもあった。
奥さんにラインする。
がんかも知れないって。まだわからないけど。
驚きと心配の返信。そして、確定ってわけじゃないんでしょ?という僕と同じすがり方をしていた。
再検査の結果を待つしかない。それまでは何を考えても仕方ない。
そう、何を考えても仕方ないんだから。
その日は冷静だった。
夜に手紙やメールを書いて、翌日読み直すととんでもなく恥ずかしいことを書いているという。
そう、夜は人を冷静にさせなかった。