-28- 朦朧。
穴だらけの背中を背にして仰向けに寝る。
ドラマでよく見る、大きな丸いライトが目に眩しい。
いよいよだ。
お腹を30センチ切り開き、15センチの腫瘍を周りのリンパ節や筋肉ごと根こそぎ取り除く。予想以上にがんが広がっていれば出来るだけ取ってお腹を閉じて、後は薬でがんばる。そうなれば恐らくストーマ登場。背中の筋肉と神経を取れば松葉杖登場。
開けてみなければわからない、そんな勝負だ。
「はい、では全身麻酔入れていきまーす。」
さあ……いよいよだ………!
「あ、目が覚めました?」
……あれ?
…………ここは?
……終わったの?
正直、目覚めた時は朦朧としてあまりよく覚えていないが、一瞬の出来事だった。
あっという間に麻酔にかかって、一瞬目を閉じただけぐらいの感覚だ。夢を見るとか何もなかった。
場所は回復室だったようだ。
ぐわんぐわんに回る視界に、先生が目の前でグッと親指を立てたのが映った。
看護師さんに何やら声をかけられ、そのままもう一度寝たようだ。
…………ん?
あ。
奥さんだ。
奥さんがいる。
その隣は、親父だ。さらにその隣は、兄嫁さんだ。来てくれたんだ。その隣は母親だ。
…ったようだ。正直あまりはっきり覚えていない。回復室から病室に戻っていたが、大部屋から1人部屋に移っていた。
後から聞いた話だが、その時僕は、ボーッとしながらありがとうと連呼していたそうだ。
しばらくみんなで話していたようで、そして看護師さんを残してみんな病室を出ていった。
お腹のあの位置を探ってみた。
何も、付いていなかった。