そして新米パパは小腸がんになった。

働き盛りの30代、長男生まれて2ヶ月後、新米パパは小腸がんになった。がん患者の日常と心情を徒然なるままに綴るブログ。

-54- あれ?

「はい、じゃあここに仰向けに寝てくださいね」

 

目線の先にはドラマでよく見る例の丸い大きな照明。

埋め込むのは右胸の鎖骨の下辺り。

 

「ちょっと麻酔が痛くてズーンと来るかも知れませんが、がんばってくださいね」

 

そんなフォローのない言葉にももう慣れっこ。

 

 

局所麻酔は、例の硬膜外麻酔の時にやったことがある。

局所麻酔の何がアレって、痛い感覚以外は全部感覚があるってこと。あと、本当に麻酔が効いてるか自分でわからなくて、切られるまでドキドキしなきゃならないこと。

 

切られ具合は硬膜外麻酔のときとは比べ物にならない。まあ、あのときも相当長時間プスプスとんとんされたけども。

 

 

顔だけ布を掛けられる。

 

プスっ。ずーーーん。

 

おお。それなりに痛い。うん、麻酔効いてる気がする。

でもほんとに効いてるのかな?切っても痛くない?

 

「はい、じゃあ始めますねー」

 

ほんとに切っても大丈夫だよね?

 

ねえ、大丈夫だよね?

 

あ、大丈夫だ。

 

 

周りの話し声と、すぐ耳元で器具がカチャカチャいってるのがしっかり聞こえる。

まあ、今回はすんなり終わりそうだ。心を無にしてやり過ごそう。

 

 

 

「ん?」

「あれ?」

 

あれ?

とか、手術中聞きたくないキーワードNo.1なんですけど。

 

「止まらないな」

 

なにが?

ロマンティックが?

 

「あの、◯◯さん。今ポートを埋め込んだんですが、目的の血管のすぐ近くに動脈があって、かすってしまったみたいなんです。今血を止める作業をしています。ポートは埋め込めたんですが、このままだと血管がダメになってしまう可能性が高いので、大変申し訳ないんですが左側でやり直しします」

 

はい、やっぱり何か起こった。

ほらね、すんなり行かないんだよね。

 

 ぐいーーーーっと右胸を先生が押している。

 

 「こういうのはめったにないんですけどね」

 

 二の腕のカテーテルのときも、背中の硬膜外麻酔のときも、どうも僕の血管や骨は先生達の想定の外をいくらしい。

 

右胸を押されながら、もう一人の先生が左胸へ麻酔イン。

右の穴にイレウス管入れながら、左の穴に胃カメラ入れて鼻が満員になったのを思い出す。あの時は麻酔などなかったが。

 

 

プスっ。ずーーーん。

 

カチャカチャ。

 

カチャカチャ。

 

ぐいーーーーっ。

 

「まだ止まらないな」

 

カチャカチャ。

 

色々丸聞こえ。

 

「よし、止まってきた」

「じゃあ塞ぎますね」

「こっちももう終わる」

 

局所麻酔。もうあんまやりたくないな。

 

 

仕切り直しの左胸はすんなり終わったらしい。

 

「はい、お疲れ様でした。ごめんなさいね、2倍かかってしまって。疲れたでしょう」

助手の看護師さんが僕の体を起こしながら言う。

 

こちらこそすいませんね。めんどくさい体で。

余計な穴1個空いちゃったのはまあ、仕方ない。

 

 

別に普通に歩けるが、帰りは車椅子に乗せられて病室へ帰った。

 

やれやれだぜ。