そして新米パパは小腸がんになった。

働き盛りの30代、長男生まれて2ヶ月後、新米パパは小腸がんになった。がん患者の日常と心情を徒然なるままに綴るブログ。

-26- じゃれ合う笑顔。

当日の朝は、6時には目が覚めた。

昨夜は思いの外、よく眠れた。

 

手術の順番は朝一番なので、8時半には病室を出て手術室へ向かう。

 

奥さん、両親、兄が病室に来てくれた。

みんな笑顔だが、目は笑っていない。

 

みんな、ありがとう。心配かけるね。

まあ、ちゃちゃっと受けてきますよ。ここまできたら自分にできることは、何もない。

 

 

ドラマや映画の勝手なイメージで、手術室まではベッドごと移動すると思っていたら、普通に徒歩だった。

 

看護師さんに付き添われ、エレベーターで降りたら大きな部屋に通された。天井が高くて真っ白くて何もない、ただ大きな部屋。自分の他に数人、既に椅子に座って待っていた。

名前を確認され、手術室の番号を告げられる。8番だ。

 

大きな自動ドアをくぐると、一気にひんやりした空気になった。扉に大きく番号が描かれた部屋がいくつも並んでいる。どうやら、1フロア全てが手術室で、さっきの待合室が真ん中にあり、その周りをぐるっと各手術室が囲んでいるようだ。扉や床や壁の雰囲気は、何だか大きな市場の冷蔵庫兼倉庫といった感じ。市場と違うのは、魚の臭いがしないのと、埃1つないのと、手術着を着た人が忙しそうに行き来していること。そして、緊張感で張りつめていること。

 

1番と描かれた扉を左に曲がり、8番を目指す。

 

すごいいっぱい手術室があるんですね。

 

「大体、この朝一番の回は手術室は全部埋まりますよ。終わり次第、次の患者さんが入れ替わりでどんどん手術していきますね。」

付き添いの看護師さんが微笑みながら答える。マスクで見えなかったが、たぶん微笑んでいるはずだ。

 

8番の前に着いた。

しばし待つ。

 

隣の9番に目をやると、白い帽子をかぶった小学校低学年か中学年ぐらいの子が、向こうの看護師さんとじゃれている。笑顔だ。

 

あんな小さな子も、がんで手術するんですね。

 

「そうですね……。」

とだけ看護師さんは言った。

自分も頑張らなきゃいけないなぁ、と思う一方、もし今3ヶ月の長男ががんになったら……自分は果たして平常心でいられるだろうか。小さな我が子を手術室に見送る親の気持ちは…。

 

8番の扉が開き、先生が出てきた。陽気な関西弁の先生だ。

「大丈夫!目が覚めたら終わってますよ。任せて任せて!」

相変わらずの陽気な関西弁で安心安心。

 

 

扉をくぐり、勝負の場へ。