-81- 余命。
検診と点滴の日。
今は2週間に1回のペースで病院に行っている。
何クール目なのかはとっくに数えていない。無期限なのだから意味がない。
前日にふと気になったことを先生に聞いてみた。
あの手術後、もし抗がん剤治療をしていなかったら、余命はどのくらいだったんですかね?
手術後の説明で、抗がん剤治療することを強くお勧めします、としか言われなかったから。
「まあ、小腸がん自体のデータが少ないし、個人差もあるから一概に言えないですが、もし大腸がんで○○さんぐらいの症状だとしたら、まあ、9ヶ月ってとこですかね」
こわっっっ!
もうとっくに死んでるじゃん。
改めて、がんという病気の怖さに触れてゾッとした。同時に、抗がん剤治療しててよかったと心底思った。
「今の抗がん剤は本当に進化してるので、その辺はかなり伸ばすことができますからね。○○さんのがんはそんなに数が多くないし」
うんうん、進化してる………
かなり………?
それって、どのくらい………?
1年?5年?10年?30年?
それは聞く気になれなかった。
怖くて聞けないのもあるけど、聞く意味もないとも思った。それは先生にも何とも答えられないだろう。今は順調に薬が効いていて、一生消えないと宣告されているこのがんを抑えられているけど、今後どうなるかはわからない。突然悪化するかも知れないし、このまま一生抑えられるかも知れないし、凄い新技術が開発されてもしかしたら消えるかも知れない。
突然悪化するにしても、それはある日交通事故で死ぬのと変わらない。
そう思うしかないじゃない。
全く、とんでもないモノを体に飼っちまったもんだ。
とにかく僕にできることは、抗がん剤治療を続けて副作用に耐えて、仕事を続けること。
なーに、もう副作用がどんなもんなのかはわかった。ツラいことはツラいけど、全然我慢できる。死ぬことに比べればどってこたぁない。生きてるだけで丸儲け。
家族のためなら何でも耐えてみせるさぁ。
これ、独りだったら、耐えられないかもね。