-23- 味。
朝、必ず回診がある。
カーテンをシャッていきなり開けるので、油断していると危ない。
「絶飲食、どうですか?」
どうですか、って言われてもなぁ…。
いやー、キツいです。でもまあ、もう慣れましたよ。
「そうですねー。もう1ヶ月になりますもんねー。キツいですよねー。」
「それじゃ、飴玉はオッケーにしましょう。」
……え?
今、何と………?
「喉渇いちゃうかもしれないからほどほどですけど、飴玉ならいいですよ。水は絶対飲まないように気をつけて下さいね。」
…………え?
ほんとですかっ?
「ほんとですよ。」
もっと早く言ってよっ、とは思わなかった。
先生がカーテンを閉めるや否や、下の売店に行く準備を始める。
こんなに希望に満ちた気持ちで、病院の廊下を管だらけで点滴引き摺りながら歩くことがあろうか。
どれにしようかな〜。
こんなに飴をウキウキで真剣に選んだことがあろうか。
ベッドに戻り、袋をガサガサ。
え、いいんだよね?口の中入れていいんだよね?後からやっぱりダメでしたとかないよね?
オレンジ味の飴玉、ドキドキしながら口に運ぶ。
…………………………!
味だ………。
味がある…………。
こんな素晴らしいことはない。何味とか関係なく、味があることだけで素晴らしい。1ヶ月間自分の唾の味しか味わってなかったのだから。
飴玉1個をこんなに美味しいと思うことは後にも先にもないだろう。
気がつけば引き出しの中で飴の種類が増えていっていた。
手術の日が決まった。
先生がかなり無理してスケジュールを融通してくれたらしい。
この日から1週間後の朝一番。