そして新米パパは小腸がんになった。

働き盛りの30代、長男生まれて2ヶ月後、新米パパは小腸がんになった。がん患者の日常と心情を徒然なるままに綴るブログ。

-23- 味。

朝、必ず回診がある。

 

カーテンをシャッていきなり開けるので、油断していると危ない。

 

「絶飲食、どうですか?」

 

どうですか、って言われてもなぁ…。

 

いやー、キツいです。でもまあ、もう慣れましたよ。

 

「そうですねー。もう1ヶ月になりますもんねー。キツいですよねー。」

「それじゃ、飴玉はオッケーにしましょう。」

 

……え?

 

今、何と………?

 

「喉渇いちゃうかもしれないからほどほどですけど、飴玉ならいいですよ。水は絶対飲まないように気をつけて下さいね。」

 

…………え?

 

ほんとですかっ?

 

「ほんとですよ。」

 

 もっと早く言ってよっ、とは思わなかった。

先生がカーテンを閉めるや否や、下の売店に行く準備を始める。

 

 こんなに希望に満ちた気持ちで、病院の廊下を管だらけで点滴引き摺りながら歩くことがあろうか。

 

どれにしようかな〜。

 

こんなに飴をウキウキで真剣に選んだことがあろうか。

 

ベッドに戻り、袋をガサガサ。

 

え、いいんだよね?口の中入れていいんだよね?後からやっぱりダメでしたとかないよね?

 

オレンジ味の飴玉、ドキドキしながら口に運ぶ。

 

…………………………!

 

味だ………。

味がある…………。

 

こんな素晴らしいことはない。何味とか関係なく、味があることだけで素晴らしい。1ヶ月間自分の唾の味しか味わってなかったのだから。

飴玉1個をこんなに美味しいと思うことは後にも先にもないだろう。

気がつけば引き出しの中で飴の種類が増えていっていた。

 

 

 

 

手術の日が決まった。

先生がかなり無理してスケジュールを融通してくれたらしい。

この日から1週間後の朝一番。