-62- ジーパン刑事 其の2。
ある日お風呂でシャワーを浴びていたときのこと。
お風呂に入るときの注意点といえば、オキサリプラチンの副作用で痺れないように先にお湯を出して温かくしておく、ぐらいだと思っていた。
そう、あのときまでは。
頭を洗っていたら、掌に違和感が。
ふと見ると、掌に髪の毛がゴッソリ。
なんじゃこりゃーーーーーー
も、もしかして、これが噂の……!
5FUの46時間点滴。
1クール目は何ともなかった。
2クール目の1週間が経った頃だった。
半年以上やってるオキサリプラチンで脱毛はなかったし、アバスチンは痔に悪いので止めてるし、ゼローダは飲んでいない。
5FU………お前か…………。
次の日も、その次の日も髪の毛は順調に抜けていく。
完全に油断していた。ゼロックス療法で脱毛は出なかったから。昔から髪の量が多くてフサフサな僕の毛根、さすがだねーなんて思っていた自信は儚くも崩れ去った。
あーあ、これ、ツルツルになっちゃうのかな。乳がんの女の人が抗がん剤やると皆脱毛しちゃうし、同じなのかな。
いかんよ、僕の仕事はお堅い客商売。帽子被ってなんて絶対接客できないし、うちの会社坊主はご法度だし。
今までのどんな副作用よりも、ヘコんだ。
こうなったら海老蔵みたいなお洒落ハゲにするしかない。でも海老蔵みたいになるにはもっと痩せなきゃ。でも食べてる時だけ気持ち悪いのを忘れられる僕の吐き気の副作用ではなかなか難しいな…。いやいや、痩せなきゃカッコ悪いハゲになってしまう。
なんてことを本気で考えた。
その後後半の1週間になると抜けるペースは落ちてきたが、抜け毛は続いた。
次の点滴投与の検診日、先生に訴えた。
あの…髪の毛の脱毛が出てきて……。
「あー、出てきましたか。5FUですね。でもまあ、地肌が見えるくらい抜けることはないと思いますよ」
ほんとですかっ。信じていいんですねっ。
「まあ全体的な髪の量は減っちゃいますけど、多分大丈夫ですよ」
がんになって、一番救われた言葉かもしれない。
ああ、これ全部抜けちゃいますねとか言われたら、なんとか5FUを中止してもらえないか泣いて嘆願するつもりだった。
その後。
日によって差はあるけど、髪の毛は順調に抜け続けている。
いくら豊富な資源でも限界はあるよ。
これ、やっぱりヤバいんじゃない?