そして新米パパは小腸がんになった。

働き盛りの30代、長男生まれて2ヶ月後、新米パパは小腸がんになった。がん患者の日常と心情を徒然なるままに綴るブログ。

-61- ぎゅーー。

とりあえず家の近くのそれなりに大きい病院へ行ってみた。そこは肛門科はないが、外科で対応してくれるという。

 

抗がん剤やってるんですね。うーん」

「とりあえず、針刺してみて膿が溜まってるかどうか診ましょうか」

 

針。

針かー。

刺しちゃうかー。

 

プスッ。

 

いたーーーぃ。

 

「そんなに膿は溜まってないですね。とりあえず痛み止め飲んで様子見ましょう」

 

様子見ということで帰された。

 

ロキソニン飲んで様子を見るも、大して痛みは消えない。コブはどんどん大きくなってる気がする。

1週間程経って、この世の終わりのような顔をして仕事に行く僕を見かねて、奥さんがちょっと遠いが評判のいい肛門科のクリニックを探してくれたので、仕事午前休を取ってすがる思いで行ってみた。

 

「あらー、これ、ものすごく痛いでしょ。座ってられないですよね」

 

お尻を見た瞬間に先生が声をあげる。

 

「小腸がんとは、大変な思いをされてますね。抗がん剤も継続中……」

「わかりました。とにかくこれは確実に膿が溜まるだけ溜まってるので、今からお尻を1センチぐらい切開して膿を搾り出しましょう。でないと痛みは絶対なくならないですから」

 

せ、切開。

 

「一応局所麻酔はしますから」

 

プスっと麻酔。

それなりに麻酔自体も痛いが、それはもう慣れたもの。

 

「じゃあ、切開しますね」

 

それなりに痛い。でも、うん、いける。はず。

 

「じゃあ搾って膿を出していきますね。ちょっと痛いかもしれないです。頑張っていきましょう」

 

ぎゅーー

 

 

いっッッたぁぁぁぁぁぁーーーーーーー

 

 

ふぐぅぅぅ、と呻き声を上げる僕。

こ、これは、ヤバい!

散々色んな治療をされて痛みに晒されてきた僕だけど、これはヤバいやつだっ。がんの治療より、痔の治療がこんなにも痛いなんて。

トローーっと、膿と血が流れる感触がある。

 

ぎゅーー

 

いたぁぁぁぁーーーーーーぃ

 

ぎゅーー

 

うわぁぁぁぁーーー

 

※これらは全て心の中での叫びです。

 

これまで色んな痛みに耐えたきたプライドが、呻き声に込められる。

 

は、早く、せめて早く終わらせてっ!

 

ぎゅーーー

 

いっっっったぁぁぁーーー

 

 

…………

 

10分程が経っただろうか。

 

「はい、終わりましたよ。お疲れ様でした」

 

スーツの下とパンツを下ろした状態でお尻丸出しの僕は、深く溜め息をついた。

 

「いやー、よく叫び声上げませんでしたね。叫び声上げる人多いんですけどね」

 

叫び声、上げてましたよ。心の中で。

 

肛門の周りは局所麻酔が効きにくいのだとか。痛さランキング的に、動脈採血とイレウス管挿入に匹敵する上位に一気にランクイン。

 

ガーゼを傷口に当てられて、パンツを履く。

あ、でも、お尻すっごい楽になった。こんなに劇的に変わるもんか。痛いことは痛いけど、すごい楽に座れる。

 

「お疲れ様でした。膿は取れたので一旦楽になったと思います」

 

はい、すごい楽になりました。

 

………一旦?

 

「これは痔瘻になってますね。手術して治さないと、また膿が溜まってきてしまいます。ここは小さい病院なんで入院設備がないので手術できないんですが、腕のいい先生のいる大きな病院紹介しますから、そちらで手術しましょう。がんのことも紹介状に書いておきますから。がんの方の先生に手術と抗がん剤のスケジュールを聞いて調整してもらって下さいね。抗がん剤してると免疫力が落ちるので」

 

また手術か…。

なんか手術ばっかりしてるなぁ。

 

でも痔は手術すれば治る。こんな素晴らしいことはない。治療すれば治るなんて、こんなありがたいことはない。

 

 

消えないがんに無期限の治療をする僕は心の底からそう思った。