そして新米パパは小腸がんになった。

働き盛りの30代、長男生まれて2ヶ月後、新米パパは小腸がんになった。がん患者の日常と心情を徒然なるままに綴るブログ。

-31- テンションMAX。

食事時の病棟内が嫌いだった。

 

廊下と病室に、いい匂いが立ちこめる。各ベッドに配膳される。

 

「はーい、◯◯さん、お食事ですよー。」

 

決して僕のベッドに声が掛けられることはなかった。

 

 

 

 

 

「はーい、今日からお食事ですねー。ここ置きますねー。」

 

はい!ありがとざいますっ!

 

……食事だっ。

 

テンションはうなぎ登り。

 

小皿に恭しく、塩が入った小さな袋がちょこんと乗っている。これ小皿に置く必要あるか?などとは思わない。テンション上がってるから。

器が3個、全て蓋がしてある。ワクワクしながら蓋を開ける。

1個目、なんか白い液体!

2個目、なんか黄色い液体!

3個目、お茶!

以上!

テンション上がってるのでガッカリなんかするはずがない。1ヶ月半ぶりの食事。またご飯が食べられる。

 

ただただ、ありがたかった。 

 

なんか白い液体は重湯。お粥の上澄みのところで、どろっとしたお湯といった感じ。

ドキドキしながらスプーンですくい、口へ運ぶ。

 

米だっ、米の匂いと味がするっ!

そうだ、これが米の味だ。最後に食べたのがはるか昔のことのように思える。いや、まあ正確に言えばまだ米は食べていない。米風味のお湯しか食べていない。たがそんなことはさしたる問題ではなかった。

 

………………。

 

涙が出た。ごく自然に。

 

自分でも驚きだ。ご飯を食べて泣くなんて。

多分、これまでの色んな感情が入り交じったのだろう。絶飲食の我慢、イレウス管の我慢、がん告知の不安、手術の不安。

がんがこれからどうなっていくのかは、まだわからない。でも、とにかくご飯が食べられるようになった。ただそれだけで、ありがたかった。

 

なんか黄色い液体は、桃の缶詰めのシロップだけみたいなやつ。

甘いっ!ウマイっ!

最高のデザートだ。これ以上の極上スイーツがあるもんか。

 

はふぅ…………お茶も美味しい。

 

 

だがしかし、この後予想だにしない出来事が起こる。

 

完食できなかった。

どうやっても入っていかない。胃が受け付けない。たったコップ一杯のお湯が。信じられない。

遭難して餓えた人が急に大量に飯を食べると死んでしまうという。それが少し実感できた。

 

無理はしない。

だって、もう我慢しなくていいんだから。