-29- 武士みたいなもん。
朦朧とした視界で見た先生のサムアップ。
手術は大成功だったそうだ。
懸念されていた、お腹の前の方へのがんの拡がりはあまりなく、臓器の少ない背中側へ腫瘍が大きくなっていたことで、ストーマが必要な程腸を取り除くことはなかった。背中の方も、うまく神経は取り除かないで済んだので松葉杖にもならなかった。
見えるがんとリンパ節とがん周辺の器官は根こそぎ取り除けた。
感謝。
感謝しかない。
今からでも医者になりたいと思うぐらい、先生に感謝だ。
さて、手術直後の見た目の様子はと言うと。
管が4本。
鼻から、二の腕から、手の甲から。そして、下半身から。
この下半身のやつ、麻酔中じゃなきゃとてもできないなー。入れる瞬間を想像しただけで、キューっと縮み上がる。尿を排出するための管。
手の甲のやつは、例の硬膜外麻酔が入らなかった代用の、術後の痛み止めの点滴らしい。当然、硬膜外麻酔より弱いらしく。
「傷口痛いでしょー。申し訳ないね。」
いやーでもこんなもんじゃないですか?
「いやいやいや、30センチ切ってるんだよ?絶対痛いよ。」
そんなやり取りを先生とした。
僕は高校生のときにギックリ腰をやって以来、ずっと腰痛と付き合ってきたこともあって、激痛には慣れているらしい。
「明日は早速歩いてみましょうね。」
痛いでしょ?と聞く割には手厳しい。
とにかく術後は歩いた方が傷の治りがいいとのことで。
管を抜いて、1ヶ月食べてないご飯を食べられるようになるためならば。痛いぐらいなんぼのもんじゃい。いくらでも歩いてやるぜ。
痛たたたたたたたたたっ。
痛かった。
そりゃそうだ。ハラキリしたんだもんね。