-22- とあるおじさんの苦悩。
「昨日の検査の結果が出ましたよ。他に転移はしてないです。大丈夫、手術できますよ。」
あぁ… よかった…。
ありがとうございます。よろしくお願いします。
「小腸から離れたところには転移してないけど、小腸と大腸の周りにはがんがいくらか広がってるようなんですわ。目に見えるがんは根こそぎ手術で取っちゃいますわ。ただ、お腹開いてみて、どう広がってるかでちょっと状況変わることはあるかもしれんですけど。」
関西弁の陽気な口調で五寸釘を刺してきますなぁ。
全て任せると決めてこの病院に来た。
お任せします。と一言だけ言った。
「我々も全力でやりますから。がんばっていきましょ。」
「また後日、ご家族交えて手術の詳しい説明しますから。」
ベッドが移動になった。
大部屋でも、景色のよい窓際は差額ベッド代が1日5600円かかる。最低限の医療保険しか入ってないにわか管理職の自分には痛い出費だ。看護師さんにお金がないことを超遠回しに伝えたら、全て察してくれて差額なしのベッドに移してくれた。たまたま空きが出たようでラッキーだった。しかも同じ部屋の斜向かいのベッド。
僕が元いたベッドにはすぐ入れ替わりで新しく入院してきた患者さんが入ったようだ。
カーテン越しで声しか聞こえないけど、声が大きくて元気な患者さんだ。
次の日の夜、看護師さんの困った声が聞こえてきた。
その患者さん、採血と血糖値の測定をやりたくないとお怒りの様子。医者の説明が曖昧で、がんなのかどうかわからない、信用できないから採血もやらせない…ですって。
まだ検査の結果が出てないようだから、そりゃ医者は軽々しくがんですとは言わないと思うんだけど…。でもね、気持ちはわかる。わかるよおじさん。たぶん同室の他の二人もわかると思う。
不安なんだ。
不安で仕方ないんだ。
まさか自分が。何で自分が。
この病院に来たということは、ほぼ間違いはないのだろう。看護師さんに、自分は今まで暴飲暴食もしないで健康に気を遣って、まじめに生きてきた、って訴えていた。おじさんは夜中何度もうなされて起きてた。
告知を受けるまでには、覚悟を決めておくことにしよう、おじさん。
看護師さんも、困ってるから。