-7- 真夜中の営み。
入院するのは人生で2回目。
1回目は5年ぐらい前、盲腸だった。
あの時は仕事はまだ前職。2ヶ月ぐらい休みがなかったので、ようやく病院に行ったら手遅れ一歩手前だったそうだ。盲腸はほっといたら死ぬ病気なんだよと、先生に本気で怒られたのはいい思い出。
4人部屋で窓際のベッド。きれいな部屋で快適そうだった。快適でないのは自分の鼻と喉だけだった。
「腸から水を出しながら、色々検査をやっていきます。恐らく腸の中で炎症を起こしていると思いますが、検査の結果を見て診断を出します。単なる炎症なら薬で治せますよ。手術するかはまだわからないですね。」
「早速明日、大腸カメラをやりますから。」
大腸カメラ?
胃カメラより恐ろしい響きなんですが、しょうがないですやります。
「絶飲食なので、飲んだり食べたりしないように。これから点滴を入れて、栄養は入れていきますから大丈夫ですよ。」
この時点で既に1週間は何も食べていなかった。唯一の救いは飲み物だったけど…しょうがない、暫くの辛抱だ。
心の中でしょうがない、もう何回目だ?
この時は、暫くというのは1、2週間だと勝手に思っていた。
それよりも……
管が常に触れる鼻と喉の違和感と痛みは、しょうがないとはまだ割り切れなかった。唾を飲み込む度に痛い。首を動かす度に痛い。
喉が痛いので、声が出しづらい。ほとんど話せなかった。
入院初日の夜は、痛くて全然眠れなかった。
一晩中、管と首がどの位置だと一番痛みが少ないか、いつこの管は外れるのかを悶々と考えていた。
真夜中、名案が浮かんだ。
水を腸から出すために入れているんだから、水が全部出れば外してくれるはず。よし、絞り出すぞ。
点滴スタンドの下にぶら下がっている袋には、管から出てきた腸液が溜まっていた。この袋一杯とお腹全体って、大体同じぐらいの量じゃないか?ということはこの袋を一杯にすればかなり勝利へ近づくはずだ。よし、朝までに一杯にして外してもらって、明日は快適に過ごそう。
管を揺すったり、お腹を揉んでみたり、立ってみたり座ってみたり。
よし、いい感じで出てるぞ。
早朝の検温で看護師さんがカーテン開けたときはベッドに座って作業の真っ最中。
「ワッ!ビックリしたっ、起きてると思わなかった」……って。
朝、先生が回診に来た。
見て下さい。こんなに水出ましたよ。かすれ声で訴える。
「ほんとだ、すごい出てますね。いい感じですよ。」
そうでしょうそうでしょう。
ところでこの管っていつ頃外れるんですかね?
かすれ声で期待を込めて遠回しに聞いてみる。
「点滴から水分がどんどん入ってますからね。今日明日で取れるもんじゃないですよ。たぶん退院のちょっと前になるよ。」
…………………………。