そして新米パパは小腸がんになった。

働き盛りの30代、長男生まれて2ヶ月後、新米パパは小腸がんになった。がん患者の日常と心情を徒然なるままに綴るブログ。

-56- 食べるということ。

【胃瘻(いろう)】 腹壁を切開して胃内に管を通し、食物や水分や医薬品を流入させ投与するための処置。最近では人工的水分栄養補給法と呼ばれる。 1日5600円の差額ベッド代のかかる眺望抜群のベッド。 正直、眺望はどうでもよい。5600円あったら毎日焼き肉が…

-55- 宝物。

病室は13階。 今回は無期限の絶飲食とかいう修行僧のような縛りはないので、売店に行っても、ショーウインドゥに張り付いてトランペットを眺める少年のような感じで食べ物を見なくてもいい。 早速1階の売店へ向かうためエレベーターへ。 エレベーター内は点…

-54- あれ?

「はい、じゃあここに仰向けに寝てくださいね」 目線の先にはドラマでよく見る例の丸い大きな照明。 埋め込むのは右胸の鎖骨の下辺り。 「ちょっと麻酔が痛くてズーンと来るかも知れませんが、がんばってくださいね」 そんなフォローのない言葉にももう慣れ…

-53- ちょっと手術しに行こうぜ。

【ポート】 血管内に薬剤を注入するための医療機器。完全に皮膚の下に埋め込まれ、その部分が少し体表上に盛り上がるだけで、基本的には普段通りの日常生活を送ることができる。 「じゃあ、1時半から手術なのでよろしくお願いしますね」 入院手続きも終わっ…

-52- おじいさんズ。

久々の入院。 まあ、マズイ状況になって緊急入院とかいうわけでないので、気は楽。 差額ベッドがかからない部屋を全力希望したが、残念ながら1日5600円かかる眺望抜群のベッドに。 くそう。いい眺めだ。 部屋は四人部屋。 例によって基本的にカーテンが閉ま…

-51- 隣り合わせ。

早くも6クール目が終わろうとしていた。 2度目のCT検査。 CTの結果は毎回ハラハラする。もしがんが大きくなってたら………。 「前回と大きさ変わりないですね。よく抑えられてます」 ああ、よかったです。 「ただし…」 「肝臓に転移してます」 え。 「実は手術…

-50- 限界ギリギリ。

【小腸がん】 小腸腺がんは全悪性腫瘍のうちの0.5%以下、全消化管悪性腫瘍のうちでも5%以下。欧米諸国における小腸腺がんの年間発症率は0.22人/10万人から0.57人/10万人と極めて稀な腫瘍であり、希少がん(年間発症率:6人未満/10万人)に該当する。 そん…

-49- がん患者は働かなくていい。

がん治療にはお金がかかる。 僕の場合、健康保険と高額医療費使っても、月6万円は避けられない。 年間72万円。突然年収が72万円下がったようなもんだ。それと、残業しにくいなどで働ける時間も少なくなるから、現実に年収は下がる。 がん患者は働かなくてい…

-48- ボーリングの玉。

【悪心(おしん)】 吐き気,嘔気ともいい,今にも嘔吐しそうな不快な感覚をいう。嘔吐に先行することが多い。悪心・嘔吐は嘔吐中枢を刺激されることによってひきおこされる。とくに悪心は,嘔吐反射発生の閾値に達しない程度の弱い刺激によって発生するものと…

-47- 大魔王。

3つ目の抗がん剤、ゼローダは飲み薬で。 1回6錠×朝夕×14日間=168錠 168錠。生まれてこのかたこんなに薬をスナック感覚で飲んだことはない。 抗がん剤の副作用は、本当に人と病状によりけりで色々出方が違うらしい。 自分の場合、大体こんな感じのようだ。 点…

-46- 大怪獣。

まずは抗がん剤を打った後の過ごし方についての説明を改めて受ける。 吐き気や下痢や皮膚の異常が出たときに対処する薬がそれぞれあるが、完璧に抑えられるものではない。神経障害の痺れはそもそも抑えられないし。やはり基本的に「耐える」ことが必要。なる…

-45- いよいよ。

点滴は2種類。 アバスチンは15分、オキサリプラチンは2時間、投与するのに時間がかかる。 先生の診察を終えてから点滴するのだが、薬剤を調合するのに1〜2時間かかる。 診察の前に採血するので、診察の30分〜1時間前には病院に着いていたい。 診察は大体押し…

-44- 時代劇でよくある。

【高額療養費制度】 同じ月に同じ医療機関で支払った医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、その分が払い戻される制度。例えばサラリーマンの場合、かかった医療費の3割が自己負担だが、この制度により負担の上限が設けられる。自己負担の限度額は、一般…

-43- 仕方ない。

【副作用】 病気を治したり症状を軽くしたりする、薬本来の目的の働きのことを「主作用」と言う。薬本来の目的以外の好ましくない働きのことを「副作用」と言う。 抗がん剤といえば、副作用。 がんを患っていない人でも、皆知っている。僕も知っていた。 なぜ抗…

-42- 舌噛みそう。

「小腸がんには、専用の抗がん剤がありません。胃がんか大腸がんの薬で代用することが一般的です。データは少ないですが、比較的大腸がん用の方が小腸がんには効きやすいという結果が出てます。回腸のがんなので大腸に近いというのもあるし。」 先生が紙とペ…

-41- 二度目の…。

本当によく寝る子だ。 学生時代、友達の下宿の玄関で平気で寝ていた自分の血を受け継いでいるだけのことはある。待合室にいる間も基本的にスヤスヤ寝てくれていた。 前回先生に、今度の説明は奥さんもいた方がいいと言われたので、もれなく6ヶ月の息子もつい…

-40- 目に見えない。

こんなにデカいのか…。 転院したときは車でぐったりしながら来たし、入院中は1度も外出しなかったし、退院のときも車でさっさと出たから、外から病院を見たことがなかった。 1ヶ月振りの病院。 今日は術後精密検査の結果を聞く。これからどうするのかを聞く…

-39- 真ん中の線。

術後の精密検査の結果が伝えられる日が、あと1週間に迫っていた。 手術の後、先生談。 「手術で切り取ったものを徹底的に検査する。結果がどうあれ、早期発見ではなかったから、細胞レベルでがんが散らばっている可能性はある。どちらにしろ抗がん剤はやった…

-38- ただそれだけで。

トトロが住んでいそうな森がいくつも見えては流れていく。 新卒で入った会社を辞めてから、しばらく実家に引っ込んでいた時期がある(仕事は一応ずっとしてたけど)。 実家からは、最寄り駅まで歩けば1時間近くかかるし、最寄りコンビニでも歩けば15分はかかる…

-37- 料理は…。

退院後の楽しみといえば、やっぱり食事だ。 1ヶ月半の絶飲食。 1ヶ月半と最初からゴールがわかっていれば大分気持ちは違うのだろうけど、2〜3週間過ぎた頃の先の見えない感じは、なかなかヘビーだったと思う。持ち前の諦めの良さで心を閉ざして何とか乗り切…

-36- おじいちゃん。

退院して2週間程経った。 まだお腹は痛かったけど、だいぶ歩けるようになった。1時間ぐらいは歩き回れる。15分に1回は休憩が必要。 ふーやれやれどっこいせっと。 完全におじいちゃんだわ。 おじいちゃんといえば、同室の向かいのベッドの、退院前夜の明け方…

-35- ちょっとそこまで。

今までパジャマを着る習慣はなかった僕だけど、すっかりパジャマでゴロゴロすることに慣れてしまって、家に帰ってからは基本的にずっとパジャマで過ごしていた。 パジャマ、楽。 何よりも、自宅は楽。落ち着く。 とにもかくにも、パパは帰ってきたぞ。 ちな…

-34- 流れ行く景色 其の2。

退院の朝。 最後の病院食はなんとなく名残惜しい。 退院してからの奥さんの手料理やら外食やらからすれば、味気ない食事であろう病院食だ。でも、僕は病院食の美味しさとワクワクを忘れないだろう。 奥さんと両親が迎えに来てくれた。 病院貸出のパジャマを…

-33- 最後の夜。

手術が終わってから、部屋が大部屋から個室になっていた。 手術直後は経過観察で個室になるのだとか。 差額ベッドが怖くて聞いてみたら、この部屋はかからない個室だそうで。次の人が来たら移ってもらうから〜と言われてから、6日間そのまま快適な個室生活だ…

-32- 至近距離。

【脊柱管狭窄症】 先天的または後天的に背中の脊柱管(髄膜に包まれた脊髄などが通る管)が狭くなり、 脊髄や神経根が圧迫される病気。頸椎や腰椎に起こることが多く、伸ばして立っていたり歩いたりすると、ふとももや膝から下にしびれや痛みが出て歩きづらく…

-31- テンションMAX。

食事時の病棟内が嫌いだった。 廊下と病室に、いい匂いが立ちこめる。各ベッドに配膳される。 「はーい、◯◯さん、お食事ですよー。」 決して僕のベッドに声が掛けられることはなかった。 「はーい、今日からお食事ですねー。ここ置きますねー。」 はい!あり…

-30- 午後ティー。

他の入院患者さん達は、女性は時々若い人がいるけど男性はほぼ全員60歳以上で、70代ぐらいが主流だ。 だから30代男性はかなり珍しい。 手術翌日から病棟をガンガン散歩してる患者は珍しいらしかった。普通は数メートルがやっとか、そもそもベッドから起き上…

-29- 武士みたいなもん。

朦朧とした視界で見た先生のサムアップ。 手術は大成功だったそうだ。 懸念されていた、お腹の前の方へのがんの拡がりはあまりなく、臓器の少ない背中側へ腫瘍が大きくなっていたことで、ストーマが必要な程腸を取り除くことはなかった。背中の方も、うまく…

-28- 朦朧。

穴だらけの背中を背にして仰向けに寝る。 ドラマでよく見る、大きな丸いライトが目に眩しい。 いよいよだ。 お腹を30センチ切り開き、15センチの腫瘍を周りのリンパ節や筋肉ごと根こそぎ取り除く。予想以上にがんが広がっていれば出来るだけ取ってお腹を閉じて、後…

-27- 穴だらけ 其の2。

【硬膜外麻酔】脊髄のすぐ近くにある硬膜に背中から管を入れ、そこから麻酔薬を注入し、手術などの痛みをとる麻酔。術中・術後の痛み止めとして、全身麻酔での手術の直前などによく行われている。 勝負はいきなりやってきた。 麻酔医から前もって説明を受け…